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寄稿レポート:中島恵理の欧州里地レポート(1)
ヨーロッパの里地政策=LEADERプロジェクト

目 次
1. ヨーロッパの里地の現状
2. ヨーロッパにおける里地政策LEADER事業
3. LEADER事業の仕組み
4. スウェーデンにおけるLEADERプロジェクトの事例
5. リーダー事業から学べること
 
     
1.ヨーロッパの里地の現状

  イギリスに代表されるヨーロッパの美しい田園風景は、旅行者に、里地における豊かな環境と地域経済のハーモニーの現れと錯覚させる。しかし、ヨーロッパの里地地域も、大規模な工業型農業が、徹底した自然破壊の上に成立してきた一方、人口減少や地域経済の悪化による地域コミュニティの衰退に苦しんでいる状況にある。
 ヨーロッパにおいては、ECの共通農業政策(Common Agricultural Policy:CAP、以下CAPという。)域内農産物の貿易の自由化と価格支持政策が実施されてきた。これは、生産規模の拡大、単一産品の集約的生産、及び化学肥料、農薬の多使用等をもたらし、里地における生物多様性の減少、水質悪化等環境保全への悪影響を深刻化させた。農地の規模の違い、地域経済における公共事業への依存度を除けば、このような里地における環境の悪化、地域経済の衰退は日本の里地と非常に似ている状況にあるといえよう。このような状況下策定された、2000年以降のEU政策を定めたアジェンダ2000のCAP改革においては、農業環境政策を強化するとともに、持続可能な農村開発に重点を移していくことが強調されている。
 
     
2.ヨーロッパにおける里地政策LEADER事業

 持続可能な農村経済の活性化は、近年のEU政策の重点の一つとなってきているが、92年から開始されたリーダー事業(LEADER 1、LEADER 2)は、条件に恵まれない農村地域において、ボトムアップ、参加型の農村開発のモデルを創造する新しいタイプの事業である。これは、公的機関、民間、NGO、市民等のパートナーシップのもと、地域の個性と環境保全に配慮しつつ、地域資源活用、草の根型の地域経済の発展を進めていこうというものである。
リーダー(LEADER)は,フランス語で「農村経済の開発のための活動の連携」を意味する”Liasons Entre Actions de Development de l'Economie Rurale" の頭文字を並べたものである。リーダー事業は、EUにおける地一環格差是正のための構造政策のうちの、コミュニティ事業として位置付けられ、新しい方法論の開拓を通じて、そこから得られた手法をEU全体に普及させることが目的とされている。リーダー事業は、EU構造政策の事業目的のうち、Objective1後進地域の経済的再編、条件に恵まれない農村地域での経済基盤の多角化(Objective5b)及び低人口密度地域での地域開発(Objecive6)で設定されている地域が対象となる。リーダー事業の特徴は以下の点に整理される。
地域の資源の活用による草の根的参画と地域コミュニティの発展(Endogenous, use of local resources,bottom up)
公的機関、民間企業、NGO、市民等の様々な主体のパートナーシップによる運営
プログラムの中にマネジメント、経済プロセス及び刷新的手法の導入
地域の個性や多様施の尊重、育成、地域資源(人的、文化的の高付加価値化)
経験の交換や技術・手法の移転等国境を超えた連携
 
     
3.LEADER事業の仕組み

 リーダー事業においては、各国において設立された全国または広域の事務局が、リーダー事業のプログラムを作成の上EUに助成申請を行う。それが承認された後、各国における具体的な事業の募集が行われ、個別のプロジェクトが実施される。リーダー事業は、地域行動グループ(Local Action Group:LAG)か、その他の農村関連団体の2種類の団体によってのみ実施することが可能である。LAGは、人口10万人以下の地域でリーダー事業を実践するために、当該地域のコミュニティ、自治体等の公的機関、私企業、NGO及び住民によって結成されるパートナーシップ組織である。「その他の農村関連団体」は、自治体、農業会議所、商工会、協同組合、NPO等で、それらの活動が農村地域の発展に寄与することが明らかな場合に限ってリーダー事業の実施が認められる。LAGは、行政から独立した、会社(有限会社)、又は協同組合の形態をとる組織である。このパートナーシップ組織の結成が、地域資源活用型の刷新的な地域開発事業を展開する要であるともいえよう。
 リーダー事業で助成対象となる活動分野や、地域の状況に応じた幅の広いものとなっている。つまり地域の状況に応じて、人材教育から始める場合、具体的なプロジェクトの企画から出発する場合、さらには国境を超えた共同プロジェクトの実施等から始める場合等様々なパターンが許容されている。一般的な発展段階及び段階ごとの支援措置は以下のようになっている。

  発展段階 支援措置(例)
1)手段A: 技術の習得、人材育成段階 地域現況の分析、トレーニング、戦略策定への助成
2)手段B: プロジェクトの企画・実践段階 他地域へ普及可能な事業への支援
(ツーリズム、職業訓練、雇用促進、起業、マーケティング環境・居住改善、再生可能エネルギーの開発)
3)手段C: 共同プロジェクトの企画・実践 複数国の共同事業へのデザイン、商品開発、マーケティング支援
4)手段D: 地域全体のネットワーク EU全体への普及活動
(データーベースの作成,会合の開催、出版物)

の4段階が想定されており、それぞれの段階に応じた支援措置がとられている。

リーダー事業においては、EUと加盟国との共同出資で実施され、マッチングファンドを組み合わせることが求められる.1996年の事業においては、24%が加盟国負担、36%が民間負担でEU負担は約40%となっている。助成対象は、手段Bが圧倒的多数を占める。

 
     
4.スウェーデンにおけるLEADERプロジェクトの事例
 −バイキングの歴史を未来に生かせ、、若者は地域の宝物(Norra Bohuslan)

(バイキングの里地でのリーダープロジェクト)
 スウェーデンの西海岸、イエテボリとボーハスの2つのカウンティ及びノルウェーとの国境地域を含むNorra Bohuslan地域でリーダー基金のもと100にわたる地域活性化の活動が展開されている。リーダー地域は、EU基金の5b地域に指定されているストラムスタッド、タヌム、ムンケダル、ソテナスの4つの市町村で構成されている(面積2185km2、GDP/EUaverage-91.16, 失業率―9.19)。この地域は、森林が約40%、農地が15%を占めるスウェーデンの美しい里地の一つであるが、農業(酪農)林業、漁業に携わる人々は、人口の5%にすぎない。その他は、小規模の製造業が40%、サービス業が18%、41%が公的なサービスに従事している。4市長村を合わせた人口は、約4万4千人、人口は減少していないものの、高等学校や大学等の高等教育を提供する教育機関がこの地域に存在せず,多くの若者が都会に流出し、高齢化がすすんでいる地域でもある。
 この地域のリーダープロジェクトは、リーダープロジェクトを所管する国の省庁である地域開発庁が、この地域の自治体、各種の業界団体、NGO等関係者を集めた会議をきっかけに始められた。この会議でリーダー事業についての情報が提供された後、参加した団体が、リーダー事業への参加可能性の検討を始め、1996年11月に、関係自治体、都道府県、農業者協会、雇用者協会地域、農業経済協会、生協及び各種の地域のNGOやグループをもとに、地域活動グループ(LAG)が結成された。その後、LEADERプロジェクトUに選ばれ、この地域の伝統である中小企業の開発、地域資源を生かした製品開発、地域活性化、グリーンツーリズム等に係る各種のプロジェクトが展開されている。

(バイキングの歴史を未来に生かすーーHollbore Village)
 この地域は、ヨーロッパ中をにぎわしたバイキングの里地でもある。この里地に、タヌムの子供及び若者の文化協会(Children and Youth Culture Association)という地域のNGOによるバイキング村が創造されている。この村のコンセプトは、「過去と未来をつなぐ歴史の役割の理解を皆に」――地域歴史を学ぶことが、持続可能な未来の地域作りにつなげていこうーーというものである。
 バイキング村は、地域の人々の参加による手作りの施設であり、バイキング村の構想は約10年以上も前からあたためられていたという。この構想が、EUの構造基金及びリーダー事業により、実現・具体化が可能になった。バイキング村づくりは、バイキング時代の村の様子を、地域の人々の参加のもと再現するものである。海辺の入り江の一角の土地を買い取り、バイキングの人々の住む、長家、ボート小屋、鍛冶屋、作業場、織物小屋、さらには、バイキングの人々の拠所となっていたであろう神との出会いの場、いけにえの場等の神聖の場が再現されている。これらの建物の建築は、考古学者と建築家の協力のもと、協会のメンバー、生涯学校の生徒、失業者等の手により、伝統的な手法を用いて、1−1年半ほどかけて作り上げられてきた。伝統的な手法とは、たとえば、木の腐食を防ぐため、木の燃え殻を木の上に燻すというもの、材木間の隙間を埋めるための苔の挿入、蒸水熱により木を曲げ、屋根を作るというものなどである。これは、このような技術を保全していくという理念のもと、地域の技術者を招き、それを若者に伝えて行くという形で行われている。またバイキング村は、トネリコ(Ash),ハシバミの木、亜麻等バイキング時代からこの地域に存在していた植生が復元されている。特にトネリコの木は、バイキングの人々にとって宇宙とのつながりを象徴する大事な木であったという。さらに、バイキングの人々が飼っていた羊、豚、鶏、かも等も放されているが、これらはスウェーデンに存在する伝統的な種が選ばれたものである。スウェーデンにはスウェーデンに古来から生息する種を保存する団体が存在し、この団体からこの地域の固有種を入手したという。このバイキング村は、今後、10件ほどの民家の建築を予定しており、10年かけて少しづつ成長、発展させるという未完成のテーマパークである。
 春、秋は地域の学校の生徒の教育の場として、夏は観光客の観光スポットとして今年から一般に公開されている。学校の生徒には、織物小屋、鍛冶場での作業の実体験、貝や木の実等自然の材料をもちいたバイキング人形作り、パン焼き、バイキングの木船の乗船等、見るだけでなく、能動的な作業を含めた実戦的な教育が提供されている。又,夏には、地域の手工芸家、芸術家が彼らの作品を販売するマーケットや地域の演劇グループ等によるシアター等のイベントも行われ、地域の経済を助け、地域人々が憩う場としても使われている。バイキング村の入り口には太陽光を十分にとりいれることのできるエコロジカルな建物が作られており、この中で、バイキングの歴史にかかる様々な情報の提供、バイキングにちなんだ地域の芸術家、手工芸家の作品の販売、喫茶等が行われている。
 このバイキング村作りの中心となっているジーンさんは、バイキングの歴史を復元しそれを学ぶことが,未来の地域作りにつながっていく、建設にあたっては、EUの基金を用いたが、これからは教育、観光等のビジネスのサイドと持続可能な地域作りへの貢献というチャリティのサイドと両立させながら発展させたい」という熱意を語ってくれた。
 このバイキング村の建設は、地域の持続可能な資源の活用、地域の固有の自然の復元、環境に負荷の少ない伝統的手法の復活を地域の人々の参加のもとすすめるものであり、環境保全、地域の経済、地域作り等環境・経済・社会の3つの側面を統合したプロジェクトといえよう。

(若者を呼び戻す地域づくり)
 リーダー事業の事務所を有す、500人の人口のハビー村では、約250人の会員を有す地域づくりグループが結成されている。このグループは、多くの若者が村から去り、村が寂れていくことに危機感を抱いた人々が、約10年ほど前に結成したものである。このグループは、LEADERプロジェクトにより、コミュニティカフェ・パブとツーリストインフォーメーションセンター作りを行っている。このコミュニティカッフェ・パブは、地域の人々が憩う場作りと若者がビジネス経験等を積む場として、さらに地域の製品を販売する機能を持ち合わせている。このカフェの運営は数人の若者達に任せる形でおこなわれている。これは、若者達に、パン作り、製品の入手、カフェの財政経営等を任せることにより、彼らにビジネス経験を与えるとともに、地域の人々と交流する機会を作ることにより地域つのつながりをつけようというねらいがある。さらにカフェには、若者達が自由に使えるコンピュータ、会議室が設置されている。さらにカフェに併設して夏の観光客用にゲストルームを作ることが予定されている。ツーリストインフォーメーションセンターは、道路のサービスエリアの建物の中に設置され、地域の見所でである自然、文化を紹介するコーナー、地域の手工芸品を販売するコーナーが設置されている。このセンターは、3人の常勤と数人の若者の雇用を提供している。このような形で、このグループは、コミュニティの活性化、交流の促進、若者をターゲットにした様々な活動等のチャリティ活動の部分と、コミュニティカフェ・パブ、ツーリストインフォーメーションセンター、会議場の提供というビジネスの活動と2つの母体で地域作りを展開している。さらに地域の協会、スポーツセンターという地域の拠点となる団体と密接な連携を結び、クリスマスのイベント等地域を盛り上げるイベントを共同で行っている。このグループの中心となっている夫婦は「グループになるべく多くの人々が積極的に関わってもらうことが重要。人々がやりたいことをそれぞれが中心となって実践すること、グループの代表を、2年おきに交代させることなどにより、ワンマン体制を作らないようにしている」という。このグループはリーダープロジェクトの以前から活動をしていたが、リーダープロジェクトにより、これまでの人々の交流を中心としたものから、カフェ、ツーリストインフォメーションセンターという形にあらわれる活動へと展開を図ることができたという。この地域のリーダープロジェクトをとりまとめているクリスティーナ氏は、「持続可能な地域作りの活動は、グラスルーツの地域の活動体と、リーダー基金等による資金・公的補助という2つの2本柱のもと発展してきている。資金があっても、地域のグループがなければ活動は成功しない」と語る。

(持続可能な地域作りを支えるその他のプロジェクト)
 この地域のリーダープロジェクトは100を越えるというが、主なものは農業において、持続可能な資源作りを行うもの、地域の拠点作りというにより地域の活性化を行うもの、小規模のビジネスの立ち上げを助けるもの、ツーリズム等が中心であるという。農業関係では、小型の風力発電機の設置により農業に必要な電気をまかなおうというもの、
エコロジカルな繊維を作るための亜麻の栽培とその加工、輸入がほとんどのハーブの地元でも有機栽培等のプロジェクトが行われている。「環境保全のみを直接的に狙った活動はないけれども、どの活動も結果として環境保全に資するもの。このリーダープロジェクトの焦点は、持続可能な地域作りに資するものというもの、これは、環境、社会、経済の複数の側面を教化することにつながるプロジェクトになっている」という。私はこのプロジェクトを調査するにあたって、「リーダープロジェクトの成果が見える場所に訪れたい」旨をクリスティーナ−に相談したところ「リーダープロジェクトのお金の多くは,人々のミーティング等活動自体、ソフト部分に使われている。従って、これが成果だということで形にあらわれている(すなわちいわゆる"はこもの")ものは少ない。」と言う返答が帰ってきた。「ハードではなく、ソフトに投資すべき」と考えていたはずの私が、リーダープロジェクトの調査活動に「ハード」な結果を求めてしまった自分を恥ずかしく思う一瞬。スウェーデンの地域開発庁は、企業活動には投資しない、ハードを優先しないという方針をとっているが、事業当初はこの決定に不満をもっていたが、今はこの決定に納得している。人々の知恵絞りの部分――ソフトーーに投資していくことの重要性、またリーダープロジェクトを通してできあがった人々のネットワークの重要性を実感していると語る。

 
     
5.リーダー事業から学べること

 リーダー事業Tにおいて実施された217の事業において、計約2,5万人の雇用が創出され、うち1500人はLAGのスタッフとして活動している。リーダー事業による成果としては、里地開発の技術的な支援、職業訓練の実施、農村ツーリズム、中小企業、手工業等の振興、農業製品のマーケティング等が具体的な数値で評価されている。
 リーダー事業Tにおいて実施された217の事業において、計約2,5万人の雇用が創出され、うち1500人はLAGのスタッフとして活動している。リーダー事業による成果としては、里地開発の技術的な支援、職業訓練の実施、農村ツーリズム、中小企業、手工業等の振興、農業製品のマーケティング等が具体的な数値で評価されている。リーダー事業は、リーダー事業+として今後も継続発展することになっている、リーダー事業+は、これまで以上に環境保全、Sustainable Developmentの側面を強化するものになっている。
 ヨーロッパにおけるこのような取組みは、里地における環境、経済の改善だけでなく、政策の実施手法、体制そのものに変革を与えうるものである。リーダー事業が目指した刷新的な取組をすすめるパートナーシップの実現は、ヨーロッパにおいてもまだ発展途上であるが、このような草の根、パートナーシップ型事業は、地域の住民が地域の問題に意識をもち自立的な活動を始めるきっかけを与えるとともに(Community Development、Capacity Building)、従来の縦割り的な政策実施から、地域に焦点を当てた統合的な政策実施への転換、行政中心のトップダウンから草の根レベルからのボトムアップ式の政策決定システム及び行政組織自体の改変を促すものとなっている。日本においては逆に、ボトムアップのユニークな取組がすでにいくつか存在するのにもかかわらず、現在の縦割り主義の政策システムがそれを抑制しているという状況にあるといえないだろうか。私自身は、ヨーロッパの取組を学ぶ一方で、日本における里地のポテンシャルを実感している。このような取り組みを推進、促進できるような仕組みを今後考えていきたい。
 
       
海外里地レポート
中島恵理
環境庁・オックスフォード大学修士過程留学中
2000/11/27

 
       
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